INTERVIEW

未来、アート、教育、予想だにしない掛け算が生まれるから面白い 株式会社musuhi 手嶋州平さん【スポンサーインタビュー第6弾】

2024.01.29
花音

学校・学年・専攻の垣根を越え、共に、人生をデザインする術を身につける場であるライフデザインアカデミーMOKUMOKU。実は、頑張る学生を応援してくださるスポンサー企業の方々によって支えられているんです。

スポンサー企業の方々の仕事や人生を知ることで、自分の未来について考える材料が増えるのではないか…?

よって、第2期では、スポンサー企業の方々にMOKUMOKU生がインタビューを行い、記事にすることに挑戦していきます!

第五弾は、“株式会社musuhi”です!

|スポンサー企業のご紹介

 株式会社musuhiは、様々な領域から“対話”を通じた場づくりや人材育成を行っています。人ー組織ー社会ー地球とそれぞれ波及、影響し合う主体に着目。自分自身との対話に焦点を当てた個人向け事業から、対話型経営戦略策定支援、共創の場づくりを始めとする他者との対話に焦点を当てる組織・社会向け事業、SDGsや気候変動など地球との対話に焦点を当てた地球向け事業に取り組んでいます。昨年度からは、公教育の事業も手がけ、中学校で行われる「総合的な学習の時間」にて鹿児島の中学校と地元企業を結ぶ「かごたん(かごしま探求プロジェクト)」のプロジェクト企画・運営を行っています。

|インタビューのお相手は、手嶋州平さん

 鹿児島県出身。21歳の時、音楽の道を極めるべくアメリカへ飛び立って以来、13年間をボストンで過ごす。バークリー音楽大学卒業後、日本の高校生に向けた教育研修プログラムのコーディネーター、レゴブロックを使った対話の方法であるThe LEGO® SERIOUS PLAY®の認定ファシリテーターの取得、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館にて、対話的鑑賞(Visual Thinking Strategy)の教育プログラムを修了。
 2019年に帰国して以来、株式会社musuhiで教育事業のプロデュース、鹿児島外語学院での授業、Panasonicと教育プログラム共同研究など、『教育✖️アート』を軸として保育園から企業と全ての世代に向けた、様々な人材育成に取り組んでいる。プロジェクトに関わる学生たちからは、「シュウさん」の愛称で親しまれています。(本記事でも敬意を込めてシュウさんとお呼びしています。)

|シュウさんのお仕事について教えてください!

 株式会社musuhiで「かごたん」や修学旅行などの教育事業を担当したり、鹿児島外語学院という英語の専門学校で授業を持っていたりと、教育に関係した仕事をしているよ。鹿児島外語学院では、毎週金曜日の午前中のクラスを受け持っていて、最近はニューヨークタイムズの「​What’s Going On in This Picture?」という、写真のみが掲載された記事に対して世界中の学生たちがコメントを寄せ合うプラットフォームを活用した授業に取り組んでいるんだ。写真やアート作品を取り扱うことによって、ただ見えている事実を並べるんじゃなくて、何が見えて、何を感じて、どう考えて、どう意見を構築するのかを表現できるような授業を心がけているよ。

|アメリカで13年間生活していたシュウさんですが、どんな生活を送っていましたか?

 21歳の時、ロックスターになることを夢見て、アメリカに行ったんだ。それまで東京で音楽の専門学校に通っていたんだけど、父が病気になったことをきっかけに一度鹿児島に帰ってきて、再び音楽の道を極めようと思ったとき、海外に行くことを視野に入れ始めたんだ。
 いろんな学校を検索する中で見つけたのがボストンにあるバークリー音楽大学で、ちょうど名古屋で奨学金のためのオーディションが開催されていて。募集は締め切られていたんだけど、とりあえず申し込むだけ申し込んで、突貫で夜行バスで行ってみたらなんとか受けさせてもらえて奨学金をもらえることになったんだ。「なんでアメリカまで行くの⁉︎」って周囲の反対の声もあったけど、誰と一緒にどこで学びたいかを考えたら、アメリカ行きを決心してたんだ。

誰と一緒にどこで学ぶか、選択の先にあった文化としての音楽

 アメリカの大学に行ってよかったと思うのは、人種が豊富な国だからこその学びがあったこと。特に、ゴスペルの演奏に関わったことは、勉強としてではなく、文化として存在するリアルな音楽に触れられた貴重な体験だったと思う。日本でゴスペルって聞くと、クリスマスの時にみんなで楽しく歌っている「天使にラブソング」のような場面を想像すると思うんだけど、実際に毎週の教会での演奏に関わってみて、日本人のイメージはゴスペルの一部分でしかないことに気付かされたんだよね。
 ゴスペル文化で育った人たちは小さい頃から毎週教会に通って、神への祈りや願いの歌として歌い続けているからこそ、演奏の時も心から音を鳴らしている。だからこそ、自分だけ上部で音を鳴らしているように感じて、バンドに入った当初はブラックヒストリーの本などを読んで演奏に臨んでいたね。レゲエバンドに参加した時も、生まれてこの方レゲエしかやってきたことがないような人たちと一緒に演奏できたり、日本にいてはできない音楽の熱源に触れながら勉強できたのはすごいよかったな。

|シュウさんが教育に関わり始めたきっかけについて教えてください!

 大学を卒業後、アーティストビザを取得してミュージシャンやフォトグラファーとして活動する一方、教育研修プログラムをコーディネートをしている企業で働き始めてから、年数を重ねるにつれて教育の比重が高まってきたんだ。実家が学校を経営していて、ロールモデルである父が学生たちと接する背中をみて育ってきているから、自分が教育に関わり始めたことに関して何の違和感もなかった。
 教育研修プログラムに初めて関わった時、その会社のボスが、学生と話している僕の姿をみて「シュウ、これは天職だね」って言ってくれたのは、今でも心に残ってるね。学生たちと関わり始めたことで「学生たちが何を学びとして昇華しているのか」「どうしたらもっと思考を動かしていけるのか」っていうことに興味が湧いてきたんだ。

教育の扉の向こうで見つけたVTS

 アメリカ時代の拠点であるボストンは、学術都市と呼ばれているだけあって、Science(サイエンス)・Technology(テクノロジー)・Engineering(工学)・Art(アート)・Mathematics(数学)の5つの領域を横断的に学習するSTEAM教育に乗っ取ったプログラムが多く存在していたんだけど、コーディネートしていく中で、アートだけきちんと学びとして昇華されていないのに気づいたんだよね。マサチューセッツ工科大学で、プログラミング体験をしたり、ロボットを動かしたりしているのに、美術館に行く時だけ自由時間みたいでさ。僕自身、音楽を通して集中力とか色んなことを得て、どんなことでも学びに変えられると思っているからこそ、アートに興味ないからといって何も見ないで終わってしまうのはすごくもったいないと思ったんだ。
 その時に、出会ったのがVisual Thinking Strategy(以下、VTS)という鑑賞技法。VTSのリーディングミュージアムである、イザベラ・スチュワート・ガードナー美術館がちょうどその時、VTSのファシリテーションを軸としたミュージアムエディケーターを育成するプログラムを開催しようとしていたんだ。説明会に行ってみたら、「このコースは美術のウンチクを教えるものではありません。これは、アートを通して思考や対話を促すことで、結果的に学びの幅が広がっていくことを目指したプログラムです」ってスタッフが言っているのをきいて、まさに自分がやりたかったこととドンピシャで。すぐ、プロフィールや自分がやっていることを書いて面接を受けたら、日本人という目新しさもあったらしく入れてくれて、約1年間、VTSについて徹底的に学んだよ。

Visual Thinking Strategy(VTS)とは…
1980年代、ニューヨークで生まれた美術鑑賞法。日本語では、「対話的鑑賞」と訳されています。作品名や作者などの作品の背景は問わず、「なぜそう感じるのか?」に焦点を当て、対話を繰り返すことで思考力や表現力を高める鑑賞法です。

|日本に帰ってきてからはどんなことをしていましたか?また、今、シュウさんが一番力を入れている“かごたん”について教えてください!

 年を追うごとに教育関連の仕事への比重が高まってきて、アーティストビザの取得とやりたいこととの整合性がとれていないことに気づいてから、割とすぐに日本に帰ってきたかな。ノープランで日本、そして鹿児島に帰ってきたから、とりあえず繋がりをつくろうと思って、あるイベントに参加したことをきっかけに、今の僕がある。
 アメリカ生活で学んだ、VTSやThe LEGO® SERIOUS PLAY®の話を今のmusuhiの代表である野崎恭平さんをはじめとする鹿児島の面白い大人たちにしたら、「一回やってみない?」って言ってくれて実践の場を設けてくれたんだ。実は僕、一度も「就活」したことなくて、今やっている仕事も、全部人と人との繋がりから生まれたもので、musuhiに入ったきっかけもそう。The LEGO® SERIOUS PLAY®やVTSを取り入れた企業研修の案件で、何度か一緒に仕事をするようになったら気づいたらmusuhiのメンバーになってたって感じなんだよね。

誰も正解を持っていないからこそ誕生する学び

 今、musuhiが力を注いでいる事業の一つが「かごたん」という中学校の探求学習プロジェクトで、プロジェクトの代表としての役割を担っているんだ。「かごたん」とは、県内中学校と鹿児島県内の企業による、『地元企業のリソース✖️鹿児島のリソース』を探求し、鹿児島をより良くするイノベーションプランを練り上げるプロジェクトのこと。
 始動のきっかけは、企業向けの事業をしていくなかで、小学生・中学生・高校生・大学生という、未来を生きる当事者たちがその輪の中に巻き込まれていないことに気づいたんだ。だから、この「かごたん」のプロジェクトを通して、企業人、先生、生徒という世代や立場が違う人が、教室という場でごちゃ混ぜにされ、一緒に考え、新しいものを生み出していく。教える教えられるという関係ではなくて、互いに学び合う立場として、鹿児島の未来を作っていく輪の中に学生を引き込むことを目指しているんだ。

|シュウさんの今後の展望を教えてください!

 仕事面に関しては、「かごたん」を、学びを軸に学校と社会が接続される新しいプラットフォームにしたいと思っている。中学校という場で、生徒、学校の先生、企業が繋がっていて、学び合っているという文化が当たり前になる鹿児島を目指して行きたいな。
 僕個人としては、楽しく、クリエイティブに生きていたい。僕自身、事前に登る山を決めるタイプではなくて、その時の自分のワクワクだとか、自分の興味に目を向けて行動した結果が今に至っているんだよね。未来って未知数だからこそ不安にもなるけど、5年後、10年後って、その時の自分が何をしているのか、どういう判断をして、どんな人と繋がって、どんな新しいことをしているんだろうということにワクワクするんだ。だから、自分の知らないことや価値観、体験に対して常にオープンマインドでありたいと思っている。

|最後に、学生に向けて何か一言お願いします!

 海外に行って、そこで生活してみることも進めたいな。別に、日本がダメとかそういうことではなくて、「今、自分が思っている当たり前だけが当たり前でない世界」が“当たり前”であることを実感する手っ取り早い方法が海外にいくことだと思うんだ。日本ではどこに行っても基本日本人だから、性格や趣味嗜好が違うことにマイノリティを感じると思うんだけど、海外へ行くと、自分という存在そのものがマイノリティになるんだよね。だから、マイノリティとして生きる経験もしておくという意味で、海外へ行くことを進めたい。

|インタビューを終えて

 シュウさんは、私の人生で出会った人たちの中でも、「こんな人に私もなりたい」と思わせてくれた大人の1人でした。だからこそ、インタビューを通して、シュウさんの人生で何が起こり、何を感じてきたのかを知れたことは、自分の人生を考える上での貴重な学びの一つだと感じています。

「誰かの可能性が広がるってことは、自分の可能性も広がるということだと思うんだ。なぜなら、“誰かのできること”と“僕のできること”という掛け算が起こることで、何か新しいことが生まれると思っているから。めっちゃ勉強をしている人たちとか、常に成長し続けようとしている人たちと繋がりをつくることで、その人が成長すればするほど、自分も成長したことになるかもしれない。でも、自分も掛け算するだけの価値あるものを持っていないといけないよ。0や1ではなく、2,3・・と自分自身も成長し続けるほど、新しい価値あるものが生まれるからね。」

 お話をお聞きする中で、私自身色んな気づきを得られた言葉の一つを、最後に書き留めさせていただきました。互いが互いを応援し合い、成長し合い、それを喜び合う姿勢こそ、妬み嫉みが充満し、常にどこかで争いが絶えない現代社会において不足しているものではないでしょうか。記事を通して伝えることができる “シュウさんの経験や知見” が、記事を読んでくださった “誰かの経験や知見 ”と掛け算を起こし、新たな未来が生まれる可能性にワクワクが止まらない私なのでした。

鹿児島県出身の21歳。昨年度、1期生としてMOKUMOKU に参加したのをきっかけに、文章を書くことの楽しさを知る。趣味は、本を読むこと。いつかこの本たちを並べた古本屋をつくることが密かな夢。

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